トヨタ自動車は18日、ハイブリッド車(HV)「プリウス」を約6年ぶりに全面改良し発売した。燃費をガソリン1リットルあたり38キロと世界最高水準にする一方、最低価格は205万円と30万円近く引き下げた。すでに8万台の予約受注を獲得。新車販売復調の起爆剤にする考えだ。HVでは、ホンダが200万円を切る「インサイト」で攻勢中で、次世代エコカー覇権をめぐる“2強対決”の行方が注目される。
「多くのお客様が『買いたい』と思う値段で提供できた」。豊田章男次期社長は発表会で強調。97年の初代プリウス発売以来、HV市場を開拓してきたトヨタが、今回の3代目プリウスでエコカー本格普及をけん引する意気込みを示した。
走行時の電気モーターの活用を広げ、燃費を大幅に向上させるとともに、排気量を1・8リットルに増やした。そのうえで最低価格を205万円とし、仕様も勘案すればインサイト(排気量1・3リットル、189万円)より割安感が出るように演出した。4系列の販売店で扱うオールトヨタで売り込みを図る。
燃費などを小出しに発表する異例の戦略や、4月からのエコカー減税も追い風に、月間販売目標1万台に対し予約受注は8万台。「納車まで最速4カ月待ち」(幹部)の人気ぶりだ。北米、欧州など80カ国で順次発売し、09年に世界で30万~40万台の販売を計画。「HV=プリウス」とのイメージを改めて植え付けることを狙う。
さらに、4月新車販売ランキング(軽自動車除く)でHV初の首位を獲得した「インサイト」の勢いをそぐため、従来型プリウスの価格をインサイトと同じ189万円に引き下げる。対するホンダは「プリウスの最量販車種は220万円以上のモデル。顧客層は重ならない」と冷静を装うが、動向次第では対抗策を迫られそうだ。民間シンクタンクの富士経済は「2強対決を機にHV市場が大きく育ち、20年には80万台規模に育つ可能性もある」と見ている。
◇薄利多売で収益圧迫も
「自動車不況脱出の足がかりに」と“プリウスフィーバー”に期待を高めるトヨタだが、不安もある。新車市場全体が拡大しない中では、「カローラや他の車種はどうなるのか」(東京都内のディーラー)と、プリウスが他の車種の需要を食ってしまう恐れがあるためだ。また、インサイト対抗策として「薄利多売」に出たことで「当面は売れれば売れるほど、トヨタ本体やディーラーの収益が圧迫されるジレンマ」も抱える。
トヨタは当初、新型プリウスの最低価格を240万円程度にする予定だったが、「利幅を少なくしても台数を稼ぐべきだ」(トヨタグループ幹部)と実質2割もの値下げを決めた。「基幹部品の製造原価を従来より3割下げたので採算は取れる」とするが、最先端エコカーを格安にした今回の「価格破壊」はトヨタの新車価格戦略全体に影響しそうだ。
また、新型プリウスは、販売店の系列ごとに車種を分けて共存共栄を図る戦略を崩し、全トヨタブランド系列店で販売する。“共食い”を警戒する声も出ており、一部販売店では既に下取り価格を上げたりする実質値下げが始まっている。
◇車文化育てたい--次期社長、章男氏
「車は単なる移動手段ではない。自動車文化を育てていきたい」。6月の社長就任を前に、豊田章男副社長は18日の新型プリウスの発表会で、車への熱い思いを披露した。
トヨタは不況の直撃を受け、09年3月期に71年ぶりの営業赤字(4610億円)、10年3月期も8500億円の営業赤字になる見込みだ。それだけに、就任直後から苦境脱出を課せられる豊田氏が、新型プリウスに寄せる期待は強い。社内で当初、「性能が良くなるのだから」と従来型プリウスより価格を高くすることが検討されていたのを、逆に30万円近くも引き下げさせたのは豊田氏の指示だという。