2009年5月13日水曜日
ポルシェのエコカー技術
スポーツカーメーカーのポルシェが考えるエコカーとは?
世界的なヒット作となったカイエンに、先日開催の上海モーターショーで正式に発表が行われたパナメーラと、今でこそSUVや4ドア・クーペもそのラインナップに加えるポルシェ社。しかし、そんな“業種拡大”への足掛かりを築いたのが、911やボクスター/ケイマンといったスポーツカーの成功であるということは言うまでもないだろう。かくして、生産台数も右肩上がりの成長を続けてきたポルシェ社だが、それでも年間生産台数は10万台レベル。そこに今後生産が始まるパナメーラの台数を上乗せしても、月間生産台数は1万台に届くか届かないか。すなわち、いかに規模が拡大されたとは言ってもそれでも他の“量産メーカー”に対しては、比べるべくもない小規模なスポーツカー/プレミアム・メーカーというのが、まずはこのブランドの大きな特徴だ。
しかし、一見『環境』というフレーズとはおよそ遠くに位置しているようにも思えるそんなポルシェ社は、実はことさらに燃費改善/CO2削減という課題に積極果敢に取り組むメーカーのひとつでもある。そもそもが“研究・開発者集団”という同社の血統がそうさせているのかも知れないし、前述のような規模の小ささが、いざ環境対策を実施するといったシーンでは有利に働いていることも考えられる。ランボルギーニのように、経営者自らが「そもそもこの種のモデルの市場占有率は低く、年間走行距離も一般的に非常に少ない。そうした中で環境対策を過度に推進すれば、それは自らのキャラクター崩壊に繋がる」と表明するスーパースポーツカー・メーカーの考え方も、そこには一理がありそう。だが、それとはまた180度異なった思想の下で自らのブランドの生き残りに掛けたポルシェのようなやり方も、もちろん大いに注目出来るものだろう。
そんなポルシェがこれから発売するパナメーラも含め、すでに全モデルで対応済みのテクノロジーが直噴エンジンだ。ただし、同様にプレミアム性の高さを売り物とするBMWやメルセデスの直噴システムと異なるのは、こちらは希薄燃焼方式を採用してはいない事。希薄燃焼を行うと通常の触媒システムではNOx浄化を行うことが困難になるため、それに対応をした専用触媒が用いられる。が、その機能を保つためには成分中から硫黄分を取り除いた高質なガソリンが必要で市場によってはそれが手に入らないことから、BMWやメルセデスでは理論混合比燃焼を行うエンジンも並列に設定。一方で、生産規模からもそうした施策を採れないポルシェでは、希薄燃焼化の採用は見送っているというわけだ。
“ポルシェらしい”エコカーのかたち、ディーゼルとHV
そんなポルシェが行うエンジン直噴化のもうひとつの特徴は、それが燃費向上/CO2削減というタイトルと共に、必ず出力アップも伴っている点にある。そもそもはスポーツカー・メーカーであるポルシェ社にとって、あらゆるリファインの機会に走行性能の向上を謳うことは、生まれついてのDNAに組み込まれた命題でもあるのだろう。あるいはこの先、そうしたやり方には見直しが求められる時が待ち構えているのかも知れないが、現状ではこれも「ポルシェらしさ」として認めるべき事柄であるはずだ。
そんな直噴新エンジンの誕生と時を同じくして市場投入されたのが、従来のMTに“クルージング用レシオ”を加えたカタチで変速レンジを大幅に拡大させた、デュアル・クラッチ方式の2ペダル・トランスミッション“PDK”。発売時期としてはVW/アウディなどに先を越されはしたものの、そもそもは1980年代の同社レーシング・マシン(962)用に開発をされ、実際に実戦投入をされて高い評価を得たのがこのアイテム。選ばれしレーシングドライバーが“速さ”こそを求めるレーシング・マシンに対し、不特定多数のドライバーが世界のあらゆる地域で様々なパターンの走りを行うのが一般の市販車。それゆえに、そこに必要とされる種々多様な制御をコンピューターが行えるようになった今の時代に、各社から一挙にリリースされ始めたのがこの種のトランスミッションだ。
一方、これまでは採用することのなかった新たなパワーソースを積極的に取り込もうという姿勢を見せるのも、ポルシェの環境対応戦略の特徴。具体的には、すでにカイエンに設定されて欧州で発売済みのディーゼル・エンジン搭載車と、「2011年の発売」がオフィシャルに謳われているハイブリッド・システム搭載車がそれに相当する。
『カイエン・ディーゼル』に搭載されたV型6気筒のディーゼル・ユニットは、アウディ社から供給を受けるもの。カイエンの発売当初は、社長自らが「高回転域にかけてのパワーの伸び感に欠け、我々が狙うフィーリングとは異なるもの」とその搭載を否定していたディーゼル・エンジンだが、その後の“時代の要請”やVWを“子会社”化するという自らを取り巻く環境の変化により、グループ企業が備える各種の技術ソリューションを導入しやすくなったという現実も踏まえて新たな決意を抱いたという事か。
ハイブリッド・システムに関しては2007年7月に、VW/アウディと共同開発中のアイテムとして3.6リッターV6エンジンと6速ATとの間に最高出力34kWというコンパクトなモーターを挟み、エンジンとモーターの間にクラッチを配したユニットをすでに技術発表済み。ただし、後にアウディは自ら手持ちのスーパーチャージャー付き3リッターV6エンジンを用い、モーター内蔵の8速ATと組み合わせた新ユニットを発表している。こちらは、制御ユニットはボッシュ製で前出トランスミッションはアイシン製、ニッケル水素電池は三洋電機製などとより現実的な内容を語っていることもあり、先に述べたグループ内リソースの活用を考えればまずはカイエン、後にパナメーラに採用と目される。ポルシェのシステムが、これと同様のアイテムとなることも予想が可能だ。