トヨタ自動車と富士重工業が次世代の電気自動車(EV)の共同開発を検討していることが5日、分かった。富士重は7月から法人や地方自治体向けに軽自動車ベースのEV「プラグイン(PI)ステラ」を販売しているが、次期EVはトヨタとの共同開発車にして性能向上とコスト削減による低価格化を目指す。両社は2010年代前半にも共同開発したEVを販売したい考えだ。
トヨタは独自開発のEVを12年に発売する計画だが、資本提携している富士重が既にEVを市販し、走行データやメンテナンス上の課題などのデータを蓄積しつつあることに着目。富士重は「PIステラ」の生産を11年にも終了する予定であることから、両社は次世代EVの共同開発に乗り出すことにした。
関係者によると、富士重のPIステラ開発陣が今後、トヨタのEV開発チームに合流する。動力源のリチウムイオン電池は、トヨタとパナソニックとの合弁会社「パナソニックEVエナジー(PEVE)」から供給を受ける方向だ。共同開発するEVはPIステラより一回り大きい小型車タイプを想定。PIステラで約472万円(国の補助なしで)の車両価格をどこまで安くできるかが課題になる。
トヨタの現在のエコカーの主力は、ガソリンエンジンと電動モーターを併用して走る「プリウス」などハイブリッド車(HV)だ。しかし、環境意識の高まりで、各国政府は排出ガスを一切出さないEVに100万円を超える手厚い購入補助など普及促進策を講じており、「EV普及は従来の想定よりも早まる」(経済産業省幹部)との指摘も出ている。
EVでは日産などが先行しているが、トヨタも「脱石油社会に向けて100年に1度の変革を求められる中、(HVだけでなく)電気自動車や燃料電池車などの投入も考えざるを得ない」(豊田章男社長)として、EVの開発・実用化を急ぐ方針を示している。
◇各国が支援、競争激化
EVは排出ガスを一切出さない「究極のエコカー」である半面、充電1回当たりの走行距離の短さや、電池を含む車両価格の高さが普及の障害となってきた。しかし、温室効果ガス削減が課題になる中、各国政府はEV普及支援策を相次ぎ導入。日本がEV購入に138万円を補助するほか、米国は8月、EV開発に総額24億ドルを助成すると発表。独政府も「20年までにEVの国内普及100万台」を掲げ、09〜11年に総額5億ユーロの助成・融資策(HV・燃料電池車向けも含む)を打ち出すなど、官がEVの開発競争を後押しする流れが鮮明になっている。
「世界中の政府や都市から支援の申し入れが来ている」−−。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、10年秋から日米欧で発売する小型車ベースのEV「リーフ」の世界販売を12年には20万台規模に引き上げ、トップランナーを目指す。
一方、「プリウス」などHV普及で先んじたトヨタ自動車は、従来、「EVは電池の性能をはじめ、課題が山積」(幹部)と早期実用化に慎重だった。しかし、各国のEV奨励の流れを受けて、豊田章男社長は8月、米国での講演で「12年にEVを発売する」と表明。今月下旬の東京モーターショーにEVの最新コンセプトカーを出展するなど、エコカー戦略のウイングをEVにも広げる。HVを早期に全車種に広げる一方、EVについても「需要動向次第では、いつでも(日産などに)追いつけるよう開発を進める」(幹部)方針で、それには富士重のPIステラの実績が役立つ。
「EVは実用性を欠く」としてきたホンダも10年代前半に市場投入する方針。米カリフォルニア州がメーカーに排ガスを出さない「ゼロエミッション車」の販売増加を求める規制強化に動いているためで、EV開発競争は今後、一段と激化しそうだ。